平成29年度特徴的な事例紹介『看護学生による予防的家庭訪問実習を通した地域のまちづくり事業』

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    取組内容

    大分県立看護科学大学

    大学が隣接する地域では、高齢化が進み、高齢者の閉じこもりや老老介護などの課題に直面している。 孤立化する高齢者への対策として、大学COC事業で予防的家庭訪問実習を新設、看護学生による高齢者へのアウトリーチを開始し、段階的に進めている。
    平成25年度にはテスト訪問を開始し、コロラド大学名誉教授を招聘、指導を受けながら、平成27年度にはカリキュラムを刷新(必須科目)した。
    平成27年度からは、1年〜4年の縦割りでチームを編成(基本的に、各学年1人の計4人で1チーム)し、全学で80グループを構成、協力者宅に1ヶ月〜2ヶ月に1回の訪問を実施している。
    平成29年度4月からは、予防的家庭訪問実習の本稼働3年目を開始した。

    平成29年度特徴的な事例紹介_大分県立看護科学大学

    平成29年度特徴的な事例紹介_大分県立看護科学大学(PDF:400KB)

    学生・教員インタビュー

    1

    《この方々に伺いました》
    看護研究交流センター長     影山隆之先生
    看護研究交流センター 特任助教 平井和明先生
    看護学科4年生         大畑杏奈さん
    看護学科4年生         永尾奈々美さん


    大分県立看護科学大学のCOC事業とは、どのような取り組みなのでしょうか?

    (影山先生)大学が立地する大分市大字廻栖野は、北東を富士見が丘団地、南西を旧野津原町に囲まれており、一人暮らしの高齢者や高齢者のみの世帯の増加が著しく、現代の日本が直面する共通の課題を抱えている地域です。このような地域課題のもと、県立かつ医療系の単科大学として、地域から学び地域へ貢献していくために、「予防的家庭訪問実習」(以下、「訪問実習」という)を実施しています。
     具体的には、看護学生たちが大学4年間を通じて継続的・定期的に75歳以上の高齢者の家庭を訪問し、高齢者の健康状態や生活実態などの把握・心身の機能低下予防に向けた支援を行っています。地域の高齢者の自立を促進し、その中で地域の再生・活性化に寄与していく事を目指しています。また、この訪問実習に協力している人とそうでない人を比較する「対照群調査」を通じて、まちづくりの研究や効果の検証を行うとともに、訪問実習で得られた実態や課題等を、行政や医療機関等にフィードバックしていくことも、COC事業の中で行っています。

    まちづくりに至る連携体制について教えてください。

    (影山先生)COC事業を実施する以前は、高齢者の健康増進を目指した介護予防事業のプログラム開発や健康教室等を、自治体や企業等と連携しながら実施していましたが、系統だったものではなく散発的なものでした。
     COC事業の実施にあたっては、地域の課題と大学の教育・研究・社会貢献活動とをより恒常的な取組みとして位置づけるため、地区自治会や社会福祉協議会、民生委員、大分県や大分市の福祉保健部、医師会・看護協会、国保連合会等と大学教職員とで構成する事業推進会議を立ち上げ、地域の保健福祉や医療に関わる多様なステークホルダーとの連携体制を構築しました。
     大学は、訪問実習での教育アウトリーチから、高齢者の生活実態や健康課題を踏まえた保健指導プログラム等を提案することはできます。しかし、それを社会に実装していくことは、大学だけで実現できるものではありません。多様なステークホルダーを現場レベルまで網羅することで、大学の教育・研究の成果もしっかりと地域に還元できる仕組みが生まれ、まちづくりの一部にまで波及するようになったと感じています。


    訪問実習の概要および特徴を教えてください。

    (影山先生)この訪問実習は、看護学生が4年間を通じて、孤立しがちな75歳以上の高齢者宅をひとりあたり年4回程度、継続的・定期的に家庭訪問していくというものです。高齢者の理解と健康状態の把握から、予防的視点で支援計画の立案と実践を行い、高齢者の機能低下を予防することを目指しています。
     特徴としては、学生が高齢者のご家庭を直接訪問するという点、そして1年生から4年生までの学年横断カリキュラムのもと、各学年1名ずつ合計四名で構成する異年次チームにより協働しているという点が挙げられます。
     国の方でも医療費問題等から、医療の仕組みを入院から在宅へとシフトさせていくことが提唱されています。このような動向を踏まえ、これからの医療関係者には、適切な治療を施すだけではなく、退院後の生活まで見据えた医療を求められてくると思います。新たな医療の担い手として、学生には4年間を通して、様々な気付きを得てもらいたいと考えています。
     現在、2年間の試行期間を経て、平成27年度から正式なカリキュラムとして実施し、全学年で計80チームが高齢者のご家庭を定期的に訪問していますが、実際に訪問実習を実施させていただいた高齢者と担当の学生から、様々な声を頂いております。訪問対象の高齢者からは、健康意識や行動の変化、自身が学生の学びに繋がっていることへの生きがいや、生活を見つめ直す動機につながった等のお声を頂きました。学生からも、高齢者とのコミュニケーションの取り方や、健康維持に結びつく様々な意識や行動変化への気付きなど、従来の病院実習では困難であった、高齢者そのものへの理解に繋がったとの声が挙がっています。
     また、学年を超えチームとして協働していくことで、上級生から下級生への指導・助言やチーム内での役割分担等、学びの進度や多様な価値観のもと異年次交流が促進され、チーム力が醸成されてきたと感じています。

    S評価に至った要因について教えてください。

    (影山先生)看護系の県立大学として、訪問実習を通じて高齢者の生活に直接リーチしつつ、それをベースに大学の教育・研究・社会貢献活動へ繋げていること、また、それが地域の課題解決のしくみの中にしっかりと組込まれ、地域にフィードバックできていることが評価されたのだと考えています。
     訪問実習は、学生教育の一環として実施していますが、そのアウトリーチで得られた高齢者の状況や課題については、地域交流会や健康教室を通じて地域にフィードバックするとともに、シンポジウム等を通じて広く情報発信しています。また、対照群調査と称して、地域交流会や健康教室等の場を活用し、実習に協力頂いた方とそうでない方のグループとで生活や健康状態等の研究データの収集もしています。経年的に訪問実習の効果検証もしていますが、健康への関心度や運動機能に関する項目において、学生が訪問したことによる優位性が明らかとなりました。この研究結果により、地域の保健福祉対策として不足していた活動メニューの改善に繋げるなど、地域の保健福祉や医療に関わる多様なステークホルダーとの連携を、現場レベルまで網羅することで実現できたと言えます。
     このように、COC事業を通じた大学の教育・研究・社会貢献活動が、地域課題解決のしくみのなかにしっかりと繋がっていることが、S評価を頂いた要因であると考えています。


    COC事業において一番の成果は何だとお考えですか?

    (影山先生)大学ということもあり、やはり一番は高齢者の生活を意識できる学生が増えてきていることです。これまではつい病気に目を向けがちであったものが、病気の前や後にある高齢者の生活をイメージしながら看護実習ができるようになったという学生の意見に尽きると感じています。高齢化は全国共通の重要な課題です。我々は、現状ではいくら頑張っても80人の高齢者を訪問するくらいの事業スケールではありますが、学生が地域に入り込むと、地域がこうなるというモデルをこの事業を通じて示していきたい。そして卒業した学生が、大学での学びを通じ、人を診る看護師として活躍してくれることを期待しています。

    学生インタビュー:訪問実習を経験した感想や自身の変化について教えてください。

    (大畑さん)この訪問実習は、1年生から4年生までの学年を超えたチームとして活動しているので、チームとして動くことの大切さや難しさを感じました。また、実習内容についても大きなテーマは有りますが、高齢者を訪問して何をするかは決まっていません。訪問当初は何をしたらいいのか解らず、戸惑ったこともあります。対象の高齢者の方は、病気も無いし、認知症もありません。また、健康の意識も高く、地域との関わりも有しておりアクティブな生活を送られています。一体この方に対して何をしていけばいいのかと…。とにかく最初の1年は、この方について知ることからはじめました。2年目からは、一緒に散歩したり、趣味である手芸を一緒に実施したりと高齢者の生活を体験しました。振り返ってみると、4年間の訪問を通じて高齢者の生活を理解することができたと感じています。これまでの臨地実習では、患者さんの退院後の生活について意識していたつもりでしたが、考えていたようで考えきれていませんでした。この訪問実習を経験することで、家に戻られた後の生活をイメージしながら臨地実習を進めていける力が付いたと感じています。

    (永尾さん)私が1年生の時には、この訪問実習は試行期間ということもあり、選択科目の位置づけでした。これまでの授業では、患者さんとは病気の方が対象であり、健康な高齢者について学ぶ機会がありませんでした。健康な高齢者とコミュニケーションをとりながら、病気をどう予防していけるのかを学びたいと思い、選択しました。訪問実習に参加した自身の変化としては、相手の立場に立って物事を考えるようになったことだと感じています。これまでの実習では、同じ高齢者の方と長期間、継続して関わっていく機会に乏しかったため、最初はどのように向き合っていけばいいのか解りませんでした。そのため、当時は4年生の話し方や話題の振り方を参考にしながら、高齢者の方のお話を聞くことから始めていきました。すると、会話を通して互いに信頼関係が醸成されていくこと、それが次のコミュニケーションに繋がっていくこと等を実感しました。ここまで聞いても応えてくれるだろう、これは聞いても大丈夫か?など、ご家庭の訪問を重ねるごとに、相手の事を考えながら話ができるようになったと感じています。

    学生インタビュー:訪問実習で学んだことをどう今後に活かしていきたいですか?

    (大畑さん)来年の春から、私は地元の医療機関に就職します。私の出身は限界集落と言われている地域であり、十分な医療体制が整備されていないこともあり、苦労している方が多くいらっしゃいます。そのような現状もあり、自分を育ててくれた家族や地域の方々を支えていきたいという思いから、地元へ戻ることを決めました。その地域には、母親も含め、20名程の看護師がいます。私は、その看護師達のネットワークを築き、在宅医療を支えていく取り組みを進めていきたいと考えています。これまで育ててくれた地域に対して、私が恩返しできるのはそういう部分だと思いますし、私を育ててくれた方々がいらっしゃるうちに、絶対叶えていきたいです。

    (永尾さん)1年生や2年生の時の実習では、病気や治療についてにしか目がいかず、患者さんの生活について目が届いていませんでした。この訪問実習を通じて、患者さんの病気だけではなく、患者さん一人一人の生活環境の相違やその背景にあるもの、その要因等について考える力がついたと実感しています。患者さんを、病気のみならず、これまでどのような生活をされてきたのか、これからどのように生活していきたいのかといった、人を診ることのできる看護を実践していきたいと思います。

     

    平成29年度『特徴的な事例』選定基準


    日本学術振興会「地(知)の拠点大学による地方創生推進事業委員会」による、「地(知)の拠点大学による地方創生推進事業(COC+)平成28年度評価」において、【S】評価(計画を超えた取組であり、現行の努力を継続することによって本事業の目的を十分に達成することが期待できる)を受けたCOC採択機関(既に特徴的な事例紹介を実施している機関を除く)より選定し、インタビューを実施しましたので「特徴的な事例」としてご紹介させて頂きました。




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